オリーブオイルなどの植物性の油は体に良いと言われますが、肉の脂やバターといった動物性油脂は本当に体に悪いのでしょうか。古い栄養学では植物性の油を良しとし、動物性の油は体に悪いとされていました。
今回はあぶらの基礎をじっくり解説していきます。
あぶらの起源
人類のルーツはアフリカとされており、最初に使われ始めた油は狩猟で得た動物の油だったと言われています。
最古の植物油はオリーブオイルかごま油ではないかと言われています。ゴマはアフリカを原産とし、古代エジプトではナイル川流域で栽培されており、のちにインドに伝来しました。
古代インドでは仏教の教えの影響で肉食が禁じられ、ゴマは食用の他、インドの伝統医学であるアーユルヴェーダでも使われていました。
アーユルヴェーダは予防医学で特に食に重点が置かれている傾向があります。
ドーシャと呼ばれる個人個人の体質を重視した食事法を提案しており、何をよりもどのように摂るかということを重視しています。詳しくは以下の記事でご紹介しました。
動物油としては日本ではバターがとても馴染みがありますが、ギーという油はご存知でしょうか。インドでは伝統的にこのギーというあぶらが使われています。
インドの田舎町では、家で牛を飼うなんてことも普通で、牛乳のままでは使い道が限られますので、加工して保存性の高いギーにするというのがごく普通なのです。
ギーとは一体どんな油なのか。どんな健康効果があるのか。それとも体に悪いのか。以下で徹底解説しています。
あぶらとは?
長年あらゆるメディアで油を摂ると太るという報道がされて以来、健康のために油を控えれば良いという考えに囚われてしまっている方も多いのではないでしょうか。
油とは脂肪酸とグリセリンにより構成されています。
脂質とは脂肪酸、グリセリン、コレステロールなどの総称です。
体内には60兆個もの細胞があり、細胞一つ一つには細胞膜があり、細胞膜を通して以下のような様々な働きをします。
- 細胞内へ酸素を取り込む
- 細胞内へ栄養素を取り込む
- 細胞外へ老廃物を吐き出す
- ホルモンなどの細胞間・組織間の情報伝達を行う
細胞の健康を決めるリン脂質
細胞膜を含む生体膜はリン脂質を主成分とします。
リン脂質は脂肪酸により構成されており、膜中に存在する脂肪酸は生体内の生理的機能を調整する役割を持つ生理活性分子にも変換されます。
食事により摂取した脂肪酸の種類により生体膜の性質が変化します。この性質が変化すると膜タンパク質の機能も同じく変化してしまうのです。
ですから、正しく脂質を摂取することは全身の細胞を健康に保つ上で重要なことと言えます。
脂肪酸の種類
従来の栄養学では油を植物性と動物性に分類しました。そして植物性は体によいので積極的に摂り、動物性は体に悪いので控えるという教育がなされてきました。
研究が進んだ現在では、植物性の油脂なら必ずしも肥満や心疾患などを防げるわけではないとわかってきました。
以下のように別の視点から分類されています。
炭素鎖の長さによる分類
- 短鎖脂肪酸
- 中鎖脂肪酸
- 長鎖脂肪酸
化学構造の炭素の数で分類されます。
長鎖脂肪酸
食用油の多くは長鎖脂肪酸でできています。
長鎖脂肪酸は小腸で消化吸収ののちリンパ管経由で吸収されて、鎖骨下静脈から血管に入り、脂肪組織、筋肉、肝臓に運ばれてほとんどが蓄積されます。必要に応じて分解されるためエネルギー化には時間がかかります。
中鎖脂肪酸
主なものはココナツオイルです。ココナツオイルの約6割を中鎖脂肪酸が占めます。
中鎖脂肪酸はまず消化酵素リパーゼにより胃の中でほとんどが脂肪酸とグリセリンに分解されます。次に小腸の血管から吸収された中鎖脂肪酸は、門脈を経由し肝臓に運ばれて素早く分解されます。
長鎖脂肪酸と異なり中鎖脂肪酸の分解にはカルニチンを必要としない特徴がある他、中鎖脂肪酸は水に馴染みやすいため加水分解されやすく、効率的に燃焼されます。
エネルギーとして素早く利用されるため、体脂肪として蓄積されにくい特徴があります。
一方で、環境ホルモンとして作用し、前立腺がんを促進する危険な働きがあることがわかってきました。
また、ケトン体として脳のエネルギー源にも活用されます。
短鎖脂肪酸
酢酸、酪酸、プロピオン酸などが短鎖脂肪酸と呼ばれます。主に酢や牛乳、乳製品に含まれます。
短鎖脂肪酸の中には殺菌作用や静菌作用があるものもあります。また、肥満や糖尿病予防にも役立ちます。
- 大腸のエネルギー源
- 腸の蠕動運動を活発化
- 結腸の粘膜分泌の促進
- 大腸ガン予防
- 抗炎症作用
短鎖脂肪酸の多くは食物から取り入れる事はなく、腸内細菌により産生されます。そのため善玉菌(乳酸菌、ビフィズス菌)の摂取だけでなく腸内細菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖の摂取も欠かせません。
食物繊維やオリゴ糖は人間の腸の消化酵素によって分解されませんが、分解酵素を持つ腸内細菌が分解するときに短鎖脂肪酸を作り出すのです。
大腸は血液より腸管の短鎖脂肪酸をエネルギー源としています。そのため、短鎖脂肪酸があると大腸の粘膜細胞のエネルギー源となり蠕動運動を活発化します。
また、短鎖脂肪酸は結腸の粘液分泌も促進します。粘膜層がきちんと腸壁に形成されていれば、腸管壁から細菌が侵入することをしっかりと防ぐことができます。
飽和度による分類
- 飽和脂肪酸(ほぼ常温で固体・酸化しにくい)
- 不飽和脂肪酸(常温で液体)
飽和脂肪酸
- 肉の脂身
- バター
- ラード
- マーガリン
- ショートニング
- ココナツオイル
炭素がすべて飽和結合で満たされたものが飽和脂肪酸と呼ばれ、常温で固体となる性質があり、化学的に安定しているため貯蔵脂肪として使われます。
動物性脂肪の主成分で、パルチミン酸、ステアリン酸などがあります。体内合成可能なため必須脂肪酸ではありません。
飽和脂肪酸にも牛肉に含まれるステアリン酸のようにHDLの働きを促し、LDLを減らすものもあります。
マーガリンやショートニングについてはトランス脂肪酸の項目を御覧ください。
ココナツオイルはHDLとLDLの両方を発生させます。
不飽和脂肪酸
- オリーブオイル
- キャノーラ油
- ごま油
- えごま油
- ひまわり油
- グレープシードオイル
一部に二重結合(不飽和結合)を持つものが不飽和脂肪酸と呼ばれます。
不飽和脂肪酸のリノール酸やα-リノレン酸は体内合成できず、食事から摂取する必要があるため、必須脂肪酸と呼ばれています。
不飽和脂肪酸が多く含まれる油は心筋梗塞や動脈硬化の予防になります。
エキストラバージンオイルはHDLを増やし抗酸化物質として作用します。
例えば、キャノーラ油は不飽和脂肪酸が多いため、LDLが減少します。
ひまわり油はLDLとトリグリセリド(中性脂肪)の濃度を下げます。オメガ6(後述)の含有量が7割と多いのも特徴です。
不飽和脂肪酸はさらに細かく分類できます。
炭素の二重結合数による分類
- 一価不飽和脂肪酸
- 多価不飽和脂肪酸
体内で作ることのできる二重結合の数が一つの油を一価不飽和脂肪酸、二重結合の数が二つ以上で体内で作れない油を多価不飽和脂肪酸と呼びます。
一価不飽和脂肪酸のオレイン酸はオリーブオイルのほか、アボカドオイル、アルガンオイル、椿油などに多く、LDLを減少させ、動脈硬化や高血圧の予防に効果があり、腸の働きを活性にするため便秘予防にも効果があります。
一方でオリーブオイルは脳卒中を促進したり、発癌を促進することが新たな研究でわかってきています。
また、オレイン酸は飽和脂肪酸のステアリン酸から体内で合成されます。
リノール酸やα-リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸は、細胞膜を構成するリン脂質の一部となり、細胞から出るシグナル物質、プロスタグランジンなどの生理活性物質の材料として使われます。
リノール酸は体内でガンマリノレン酸を経てアラキドン酸に一部代謝されます。α-リノレン酸は体内でEPAなどに一部代謝されます。
多価不飽和脂肪酸は化学的に不安定で過酸化物質をつくりやすく、貯蔵には向いていません。加熱で酸化しやすいため、高温で調理すると大気中の酸素と反応し過酸化脂質となります。
炭素の二重結合の位置の違いによる分類
炭素の二重結合の位置の違いからオメガ3、オメガ6、オメガ9と三つのオメガ系列に分けられます。
- オメガ3(多価不飽和脂肪酸・必須脂肪酸)
- オメガ6(多価不飽和脂肪酸・必須脂肪酸)
- オメガ9(一価不飽和脂肪酸)
オメガ3
代表的な脂肪酸はえごま油や亜麻仁油のα-リノレン酸です。α-リノレン酸は体内でEPAやDHAに代謝されます。
グラスフィードバター(牧草だけで育った牛の乳を使ったもの)にもオメガ3が多く含まれています。
α-リノレン酸やEPA(イコサペンタエン酸)とDHA (ドコサヘキサエン酸)には炎症を抑える働きがありアレルギー疾患や腎機能の向上、がんを予防します。
また、EPAやDHAは魚油の成分で、EPAは血栓を予防し、DHAは視力に改善に役立ちます。
オメガ3は血管の弾力を保ち、血中コレステロール値を下げ、血流を改善するため、認知症にも効果があると言われています。
しかしオメガ3は非常に酸化しやすく過酸化脂質となりやすい脂質です。過剰摂取は肌のシミや出血が止まりにくくなったり、前立腺癌の原因となります。
オメガ6
代表的な脂肪酸としてはリノール酸があります。
リノール酸は少量であればコレステロールの低下や動脈硬化の予防に効果がありますが、リノール酸を多く摂ると代謝産物のアラキドン酸を経て、プロスタグランジンなどが生成され炎症を引き起こします。
さらに血糖値を上げ、動脈硬化を促進し心疾患やアレルギー、発癌を促します。
アラキドン酸は血圧や免疫系を調節する働きがあり、肉や卵にも含まれています。また、アラキドン酸は生体膜の流動性を高めて、細胞の炎症を防ぐ働きがあります。
オメガ3とオメガ6はいずれも炎症を引き起こす原因となる一方で、一定のバランスで摂取することで炎症を抑制することもできるのです。
オメガ9
オメガ9の代表的な脂肪酸はオリーブオイルに含まれるオレイン酸です。アボカドに含まれるアボカドオイルには他の栄養素の吸収を助ける働きがある他、リコピンやβカロチンの吸収を促進させる働きもあります。
幾何異性体による分類
- シス型
- トランス型(トランス脂肪酸)
天然の不飽和脂肪酸はシス型です。シス型は体内で代謝されて生理活性分子に変換されます。
トランス型はトランス脂肪酸とも呼ばれ、一部を除き自然界には存在せず、工業的に水素を付加し不飽和脂肪酸から飽和脂肪酸を作り出す時に副産物として生じた脂肪酸です。
反芻動物では腸内細菌の働きでトランス脂肪酸が作られるため、肉や乳脂肪に微量に含まれます。しかし、工業的に生成したトランス脂肪酸と自然界のトランス脂肪酸では生体への影響は異なるのではないかという指摘もされています。
いかがでしたでしょうか。あぶらは健康を保つ上で欠かせない栄養素であることがわかりました。
現代の栄養学であぶらは細かく分類されていました。
動物性・植物性という古い栄養学による大まかな分類によって健康を考えことは理解が不十分です。健康に良いと思い込んで日常的に使っている植物性油脂でも種類や量によっては体に悪影響を及ぼす原因となるのです。
例えばオリーブオイルの一部の成分のみを捉えた論文からは健康効果が期待されます。一方で、オリーブオイルは脳卒中や発癌を促進する研究結果もあることも忘れてはいけません。
食品研究では健康に良い成分、悪い成分どちらかにフォーカスし、仮説をたてて論証していく事が多くなります。食品業界であれば販売を目的としていますから、悪い成分については発表せず、良い成分のみを強調した宣伝となります。
どの油脂も良い面と悪い面を持ち合わせています。消費者側が健康を守るためには、広告的な表現に惑わされず、良い面と悪い面を総合的に評価していく必要があります。
体に良い油と体に悪い油
大半の植物油は高度な工業生産により安価である一方、そのほとんどは農薬を使用し、遺伝子組み換え作物が原料です。高温圧搾処理により既にトランス脂肪酸を大量に含む上、更にさまざまな薬品で色や成分を化学的に安定化させたものが店頭に並びます。
体に良いと言われるとそれしか摂らなくなる方が多いのも事実です。オメガ3ばかりになる。不飽和脂肪酸は一切摂らない。という事ではないのです。
体内合成できない必須脂肪酸は摂取しなければなりません。
種類 | 例 | 安全性 | |
動物性油脂 | バター、ヘッド | 高 | 過剰摂取は控える |
植物油 (人工) | マーガリンやショートニング | 危険 | 論外 |
植物性 (飽和脂肪酸) | ココナッツオイル | 低 | 性ホルモンへの影響 |
植物性 (オメガ3) | えごま油、アマニ油 | 高 | 酸化に注意する |
植物性 (オメガ6) | 大豆油、ごま油 | 低 | 過剰摂取は控える |
植物性 (オメガ9) | オリーブ油、ごま油、菜種油 | 低 | 過剰摂取は控える |
安全な油と言えるものは、一つ目は狩猟時代からある動物性脂肪です。植物油が誕生する以前から人類が摂取していた脂が危険であれば人類は繁栄していないことなります。しかし、過剰摂取は避ける事が前提です。
二つ目に安全な油はオメガ3です。青魚に多く含まれる油脂成分です。相対的にオメガ6やオメガ9の摂取が増えた現代では積極的に摂りたい油です。
油は摂取バランスが大切です。オメガ3だけの過剰摂取はオススメできませんが、現代的な暮らしをしている人たち(家庭や外食で炒め物や揚げ物を食べている)がオメガ3を積極的に摂っても相対的に過剰摂取になることは考えられません。
意識的に避けたい油は、アレルギー症状などさまざまな問題を引き起こすトランス脂肪酸含有比率の高い人工油脂はもちろんオメガ6やオメガ9も控えめにする必要があります。
オリーブ油もごま油も健康成分だけに着目すれば積極的に摂取したくなるのはわかります。しかし、工業的に大量生産された安価なものは原材料や製造過程にその健康効果を打ち消すほどの問題があります。
日本人はどうしてもイタリア産やギリシャ産といった輸入品を有り難がる性質があり、紛い物のオリーブオイルも疑いなく受け入れてしまう傾向にありますので注意が必要です。
こちらのオリーブオイルは日本No.1の生産量を誇る小豆島の国産オリーブ100%を使った希少なオイルです。参考にしてみてください。
コストという点から農薬の問題や遺伝子組み換え作物の問題、高温圧搾や薬品処理される点などが主な問題点です。
また、古い油や調理油の再利用は避けることが大切です。
体の全ての細胞は膜で包まれています。その膜は油から作られます。みなさんが今日食べた料理は体に良い油だったでしょうか?悪い油だったでしょうか?
外食でも悪い油を使った店を避ける必要があります。その方法は以下で詳しく解説しています。
監修:岐阜大医学博士・杉浦康介
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