5000年の歴史を持つインド伝統医学「アーユルヴェーダ」には、人が心身の健康を保つために食事がどれだけ大切なことかを伝える言葉がたくさん残っています。
インドの文献の中に「正しい食べ物をとることが人間を健康にさせる唯一の方法です。また、正しくない食べ物をとることが病気の原因です」とあります。
また、インドの諺に「食べ物が適切でなければ薬はいらない。食べ物が適切であっても薬はいらない。」ともあります。
このようにインドでは数千年もの昔から食の重要性が受け継がれてきました。


アーユルヴェーダの食事
アーユルヴェーダでは消化器系がうまく機能し、栄養を体内に運ぶことで健康を保つとされています。消化器系の重要性は現代医学においても同じです。腸内フローラ(腸内環境)が免疫系やアレルギーに重要な役割を果たしていることがわかってきています。
食事をする場合、季節や体質に合わせて、自分がどのドーシャのバランスが偏っているかを把握することが大切です。そして何をどのように食べるかを決めていきます。
ヴェーダにおいては古くから人体は大宇宙である天体の小宇宙であると考えられており、天体の動きが人体のドーシャのバランスを決める要因にもなるとされています。
天体とドーシャについては以前、以下の記事でご紹介しました。
アーユルヴェーダでは加工していないものを食べることで体内の毒素を防ぐことができるとされています。これは食べ物の鮮度とも関係があります。
食事の間は3〜6時間空けるのが理想とされています。食事は早くもなく遅すぎず適度なペースで食べるのが消化に良いとされています。食後はすぐに動かず、消化を見届ける余裕が大切です。
アーユルヴェーダでは食べる時の心構えも消化や吸収に影響を与えるとされ、感情的な状態での食事はアーマを蓄積し、消化に良くないとされています。また、空腹時に飲むことや、喉が渇いている時に食べることは良くないとされています。
食事に使う食材は、できるだけ季節を意識し、自分が住む土地のそばで採れた生鮮食品が良いとされています。
また、消化を促すためにスパイスを使うことも良いとされていますし、フルーツの場合は、単独で食べるのが良いとされています。
アーユルヴェーダの6つの味(ラサ)
ラサ | 性質 | 食べ物 |
---|---|---|
甘味 | 体力増進・下剤・強壮剤 | バター・ギー・ミルク・玉ねぎ・米・小麦 |
塩味 | 粘膜刺激・下剤 | 塩 |
酸味 | 刺激 | チーズ・ピクルス・ヨーグルト |
辛味 | 利尿・刺激・発汗 | コショウ・チリ・シナモン・クミン・生姜・マスタード |
苦味 | 利尿・解毒・調整 | コーヒー・ほうれん草・ターメリック |
渋味 | 心身を引き締める | リンゴ・アスパラガス・ブロッコリー・セロリ |
味のことをサンスクリット語でラサと呼びます。
アーユルヴェーダでは「甘味・塩味・酸味・辛味・苦味・渋味」の6つの味があり、それぞれ体に働きかける性質を持っています。
ラサは植物や食べ物の本質を示すもので、ハーブや薬などあらゆるものの味が考慮されるのです。そして、味はあらゆる体の組織に影響を与え、プラーナを活性化し、アグニを刺激し、消化を促します。
味のエネルギーは味の性質が体に作用するためドーシャに影響を与えます。自分の体質に合った最低3つの味を取り入れることがバランスの良い食事となります。
甘味・酸味・塩味 | 辛味・苦味・渋味 | 酸味・塩味・辛味 | 甘味・苦味・渋味 |
---|---|---|---|
カパ↑ヴァータ↓ | ヴァータ↑カパ↓ | ピッタ↑ | ピッタ↓ |
例えば、甘い食べ物はヴァータとピッタを下げ、カパを上げます。酸っぱい食べ物はピッタとカパを上げます。
味と水分

味には水分とも関連があります。辛味・苦味・渋味には体から水分を奪い、甘味・塩味・酸味は体に水分を補う働きがあります。
例えば、ヴァータが多い方は乾燥を補うために甘酸っぱい味などで水分を補う味が理想です。
ドーシャに応じた食事

アーユルヴェーダにおける消化器系の流れを追ってみましょう。
食べ物が口に入るとラサがします。次に胃腸に入ると「熱」と「冷」の作用が起こります。「冷」はカパやヴァータを増やし、「熱」はピッタやアグニを増やします。
大腸では酸味・辛味・甘味の作用が起こります。この消化の過程で食べ物はドーシャのバランスに影響を与え、酸味はピッタとカパを増やし、ヴァータを増やします。甘味はピッタとヴァータを増やします。辛味はピッタとヴァータを増やします。
また、食べ物は調理法にも影響を受け、冷たい食べ物はヴァータとカパを増やし、温かい食べ物はピッタを高め、油性の食べ物はカパを増やします。
冷たい食べ物も温めれば熱性が現れます。生野菜も油で炒めるとヴァータを増やさなくなりますし、蒸すとヴァータを下げ、焼くとピッタを増やします。
ヴァータ
控える食べ物 | 生野菜、冷凍食品、冷たい食べ物、揚げ物、乾燥した食べ物、ジャガイモ |
取り入れたい調理法 | 油で炒める |
摂りたい食べ物 | 玄米、肉、ナッツ、ギー、大豆、豆腐 |
ピッタ
控える食べ物 | アルコール、揚げ物、ヨーグルト、塩、味噌、醤油 |
取り入れたい調理法 | 蒸す、生 |
摂りたい食べ物 | 水、青汁、フルーツジュース、生野菜、果実、豆、ギー、バター、蜂蜜 |
カパ
控える食べ物 | 揚げ物、脂っこいもの、肉、ナッツ、果物、冷凍食品、醤油、味噌、塩、卵 |
取り入れたい調理法 | 焼く |
摂りたい食べ物 | 温野菜、豆、豆乳、葉野菜、果物、熱いお茶 |
心の健康を考えるアーユルヴェーダの食事

アーユルヴェーダでは食事は瞑想の一種と考えられています。
アーユルヴェーダにおいて、精神(トリグナ)をサットヴァ、ラジャス、タマスの3つに分類しますが、食べ物にもこの3つの分類を当てはめると、サトヴィック、ラジャシック、タマシックな食べ物があることとなります。
分類 | 性質 | 食べ物 |
---|---|---|
サトヴィック | 生命力を増大・幸せを与える | ヨーグルト・ミルク・バター・麦・ナッツ・玄米・蜂蜜など |
ラジャシック | 過度に苦い、酸っぱい、塩辛い | 砂糖・肉・チーズ・魚・揚げ物・卵・イモなど |
タマシック | 新鮮でない・味を失っている | アルコール・加工食品・ジャンクフードなど |
サトヴィックな食べ物には心や精神の健康を保つ効果があり、これらの食べ物からはオージャスを増やすことができ、より大きな幸福感が得られます。
ラジャシックな食べ物はサトヴィックな食べ物よりも品質が低いとされ、少量なら許されます。
タマシックな食べ物は心の健康バランスを崩すため、あらゆる健康に害を与えます。
例えば、激辛なものはラジャスを高めます。保存食品はタマスを高めます。ラジャスは攻撃的、タマスは怠惰な性格を表すので、タマスな人がラジャシックなものを食べれば元気になるというわけです。
人は20から60歳程度まではピッタが優勢ですが、次第にヴァータ体質に移行していき肉体と精神のバランスが崩れていきヴァータ型の不調が出てきます。年齢を重ねるにつれ、サトヴィックな食べ物を増やすようにすることで健康的に長寿を送ることができます。
さらに掘り下げて説明していきますが、より詳しく学びたい方は
にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
コメント